「愛犬ルル」
相談者Мさん
愛犬が病気で長い間 入院していたそうです。
年齢は15歳で名前はルル。
家族と同じように大切な存在です。
少し前から具合が悪くなり
掛かりつけの獣医さんに相談した結果、
入院させた方が良いとのアドバイスでした。
犬としてはかなりの年齢です。
家族の一員のルル君を
もう一度元気にしてあげたくて、
信頼できる獣医さんに全てを託すことにしました。
獣医さんは誠意をこめて治療をしてくれています。
入院中は、毎日会いに行きたかったМさんでしたが
仕事があり、
面会時間にはなかなか行けませんでした。
ルルを心配する思いは、誰にも負けません。
ずっと抱きしめていたいけど、
託したことで心は軽く信じて待つことにしました。
預けてホッとしているからでしょうか、
時間はあっという間に流れていきます。
病院からの連絡に一喜一憂しながらも、
退院の日のことを考える毎日でした。
お迎えに行ったら、
どんなに喜んでくれるのかしら、
嬉し過ぎて飛び跳ねて私に顔を近づけて、
ペロペロ舐めるかもとルルのことを思います。
「ルルの様子はどう??」夫や友達に聞かれます。
「え、ええ。会いに行けてないの。
行くとルルの顔を見るのが辛いと思って」
ルルの痛々しい姿、その現実を受け止められず、
会う勇気を出せない自分もいることにも、
気付いていました。
その日も、
病院から経過報告の着信が入っていました。
お薬でも変えるのかしら、
それともそろそろ退院が早まった?
・・などと良い報告を期待しながら
獣医さんに連絡したそうです。
獣医さんは、
今日のルルの状態を丁寧に説明した後に、
こう言われたそうです。
「ルル君はいい子で、随分頑張りましたが、
最後はご家族の傍にいさせてあげましょう。
それがこの子が一番望むことだと思います。」
気が付くと
すっかり弱ったルル君をしっかり抱きしめて、
リビングに立っていました。
どうやって連れて帰ってきたかも覚えていません。
お散歩の後の様に
「ルル、お家に帰ってきましたよ。
ただいま~だね。」
と声掛けします。
ルルは懐かしい家の臭いを嗅ぐように
クンクン顔を上に向け、
またМさんの腕の中に顔を埋めました。
その日、Мさんは
ルル君が夜眠るまで側に寄り添い、
毛並を整えるようになでながら
語りかけていました。
「本当におかえり!!よく頑張ったね。
これからは、おうちでゆっくりしようね。
いつも一緒だよ。」
なるべく、側にいてあげよう。
丁度連休だもの、いっぱい遊べるし良かったわ。
ルルの為に
フワフワのベッドを作ってあげていました。
ルル君は気怠そうにゆっくり体勢を整え、
両前足に顎を乗せると眠りはじめました。
Мさんもその日は一日中、
ルルの面倒をみていたので、
食事や片付け、仕事やお風呂など大忙しでした。
「ルルお休みなさい。いい夢みてね。」
寝息を立てて眠るルルの傍で、
自分も疲れからか
落ちるように眠ってしまっていました。
翌朝、
ルル君の様子をそっと覗くとまだ眠っています。
自宅にこの子がいると思うと、
嬉しくてもう一度覗き込みました。
ルルが顔をいつあげるのかと、ニコニコして待ちました。
顔を上げたらきっと私を見て驚くかも。
「ルル。もう病院じゃないのよ。おはよう!!」
何時もなら、
耳だけはこちらの気配を感じて動かすのに
今日は、聞こえないのか寝続けています。
「ルル??」
「もう病院じゃないのよ。おはようルル!!」
何時もなら、耳だけはこちらの気配を感じて動かすのに
今日は、聞こえないのか寝続けています。
「ルル??」
やっぱり顔を上げてはくれません。
自宅の匂いとМさんの匂い。
自宅に戻れ、大切なМさんが眠る気配を待って、
ルルはそっと旅立っていたのでした。
ルル君には、
人間が彼を救う為に
入院させてくれているなんて解りません。
Мさんに何故会えないのかも分かりません。
けれどきっと会えると信じて
痛い治療にも耐えました。
寂しく暗い夜も、消毒の匂いにも、
得体の知れない音にも耐えました。
Мさんの待つ家に、必ず戻ると決めていたのです。
人はそれを帰巣本能と呼ぶかも知れません。
でもルルはМさんを守ると決めていたのです。
ひと時もМさんから離れたくなかった。
Мさんを守る為に生きようとしました。
最後の力とも気付かず。
やっと戻れた安心と
もう二度とこの家から離れないと決めて
安堵しながら眠りについたのです。
ルル君の思い出話になった時、
Мさんから少し離れた場所にルル君が来て
ちょこんと座わりました。
赤いリボンを首に付けて。あまりにも可愛い姿。
まるでお姫様に仕える可愛い従者みたいです。
「ルル君そこに来ています。
赤い蝶ネクタイに心当たりありますか?」
と聞いたところ、
ルルが入院する数日前に、
お菓子の箱についていた赤いリボンを
「蝶ネクタイだよ、ルル。めちゃカッコいい」
と付けてあげたことを思い出しました。
「ルルはとてもお利口な子でした。」
とМさんが色々なことを思い出しながら笑うと、
顔を上げて立ち上がり
嬉しそうにどこかへ走り去りました。
それはまるで生きていた頃、
おやつを隠す為に走る後ろ姿にそっくりです。
Мさんが笑ったのを見て、
安心してあちらの世界に戻りました。
尻尾を振りながらの
この時の後ろ姿はご機嫌だということを
意味していると言っていました。
亡くなった犬にはちゃんと戻るが世界あり、
元気に過ごしています。
私達が思い出したり話題にすると、
亡くなっていても
飼い犬は家族として直ぐに来てくれます。
猫、鳥も
ちゃんと行くべきところは決まっています。
亡くなって体はここになくても、
人も、他の生き物も、
こうしてコンタクトが取れます。