瀧行の記憶
『瀧行の記憶』
私は息を飲んでその滝の前に立っていた!
これからこの滝の中に入るのだ!!
周囲の人達は言葉を失っていた!!
ただ黙って不思議そうに興味深く見ていた!!
観光の為、ここを訪れた人達だった。
こっ、これが・・!!!
滝行をする滝なのか!!
標高75mの洒水の滝!!
地元の人達は滝を龍に見立て、
白竜の滝と呼んでいる。
前夜、遺書を書いた!!
この滝行で命を落とすような事があっても
後悔する事無く!!
私はここで人生を終えます!!
また、命があって出て来られた暁には
世の為人の為、私の人生を捧げます。
3月10日
周囲には雪が積もり、寒いという状態ではなく
水は痛かった!!
ほんの小さな石や流木が落ちて来ても
間違いなく即死!!
そんな状況の中での滝行であった!!
私は上半身裸になり、
粗塩を頭から身体中に擦り込み
壮大なる瀑布へと向かった!!
グゥオォォォ~~~!!
滝は私をいきなり飲み込んだ~~!!
全身が・・・・痛い!!
呼吸が出来ない!!
ドドドドドォォ~~~!!!!
ドドドドドドォォォ~~~!!!
グワァ~~ドドドドドドッ!!!
ドッドドドドッ~!!!
ドドドドドォ~!!!
物凄い瀑布だ!!
氷 水 を!!
消防車のホースで何本も!!
物凄い勢いで!!
頭上から叩きつける様だ!!
ドッドドドドド~!!!
ウッ!
ムウウッ!!
歯を食い縛り!! 足を踏ん張り!!
瀑布に押し潰されない様に
必死に 踏ん張る!!
全身に力を入れ!!
絶対に負けない!!
絶対に負けない!!
俺を潰せるものなら!!
潰してみろ~~~!!!
うぉおおお~~!!!
うぉおおお~~~~!!!
絶対に~~~!!
負け~~!!!
ない~~~~!!!!
大瀑布との
壮絶な戦いだった!!
寒い冷たいといっている世界では無い!!
水が~痛いっ~~!!
頭が痛いっ~~!!
割れそうだぁ~~!!
きぇ~~~いっ~~!!
いぇ~~~いっ~~!!!
氣が付くと
氣合いを発していた!!
懇親の力を振り絞り!!
きぇ~~~い!!
いぇ~~~い!!!
魂の叫び!! 命の叫び!!
全身からほとばしる!!
魂の雄叫びだった!!
とっ、その時!!
大瀑布に!!
一筋の光が降りて来たっ!!
眼は閉じているはず!!
なっ・・!!!
何っ・・・!!
眩しく輝く光が出現した!!
あっ・・
ああっ~~!!
眼の前に!!
眩く輝く光が現れた!!
「戦ってはならぬ!」
「瀧と一体になるのだ!!」
たっ、瀧と一体!?
そっ、そうか!!
私自身が滝になれば良いのだ!!
私は全身の力を抜いた!!
よしっ、倒れない!!
瀧と一体となるとはこの感覚だ!!
私は眼を閉じたまま
ひたすら力を抜いた!!
静寂の世界にいた!!
音も時間も無い世界!!
グォオオ~~!!
ドォオオオ~~!!
再び音が戻り!!
我に返った!!
氣が付くと
やはり瀧の中にいた!!
私は瀧から這うように出た!!
ワァアア~~!!!
パチパチパチ!!!
上から、観光の人達が私に向かって
拍手をしてくれていた!!
「凄~い!!」
「瀧行を初めて見た~!
「大丈夫ですか~!!」
色々な声が聞こえて来た!!
私は這って岩の上に座り!!
皆に頭を下げ、手を振った!!
声など出ない!!
離れた岩の上に置いた時計を見た!!
なっ何!!
一時間も!!
経過していた!!
そう言えば、瀧に入る時に見た人達ではない!!
それにしても!!
そして、あの時の声!!
「瀧と一体になるのだ!!」
そうだっ!!
教えて頂いたのだ!!
瀧は社会であり!!
流れに流されず!!
その為には!!
力む事無く、力を抜き!!
無理をせず!!
自分自身を見つめ!!
しっかり立つのだ~!!
自分の足で!!
生きてて良かった~!!
ありがとう!ありがとう~!!
今から、二十数年前の初めての瀧だった!!
あの感動を!!
あ な た に !!